ビジネスの規模によって変動する損益分岐点

商売人の中でも「売上は多いほど良い、会社は大きくなるほど良い」と信じて疑わない人が少なくないが、それが「儲かること」とは必ずしも一致しない。

わかりやすい身近な商売として「飲食店の開業」による独立プランで考えてみよう。脱サラをして飲食店を開業しようとする場合には、まず店の立地とサイズ(店舗面積)から物件を決めることから始める。繁盛店にするためには、できるだけ好立地であることが望ましいし、店舗面積が広いほど多くの席数が取れて一日の売上も高額が狙える。しかし店の規模が大きいほど月々の家賃や人件費、食材の仕入れにかかる経費は大きくなるため、店を黒字化するための損益分岐点は高くなる。

20坪の店舗を月20万円の家賃で借りるのと、30坪の店舗を月30万円で借りるのとでは、家賃の金額では月10万円の差でしかないが、店の規模に連動して他の経費も増えるために、最終的な損益分岐点では大きな差が生じてくる。

損益分岐点とは?
店の維持にかかる経費と売上高とが均衡するポイント(赤字でも黒字でもない利益ゼロの地点)

従業員が三十名いるベンチャー企業の経営者と、個人事業のSOHOではどちらが成功者としてのイメージが強いかといえば前者であるが、「どちらが潰れにくいか」といえば迷うことなく後者である。これは手掛ける事業の規模によって損益分岐点に大きな差があるためだ。

開業当初に高い損益分岐点(必要以上に大きな規模の店)を設定してしまうと開店から1年経過した頃から売上がジリジリと落ち込んで赤字続きとなってしまう。
逆に、最初から損益分岐点の低い店が口コミで人気化して繁盛すると、店前に行列ができるなどして客には迷惑をかけるが、店の経営としては儲かる。そのため「こだわりのラーメン屋」のように"本当に味のわかる客=ロングテール"だけを相手に商売をしたければ、できるだけ店には金をかけずにローコスト経営に徹することである。

売上でなく利益で考える商売人の体質

個人事業主であれ、会社経営者であれ、商売人にとって大切な視点は?
事業の成否を"利益"で考えることである。

その算式は「利益=売上-経費」という単純なものだ。しかし多くの事業者は「売上-経費=利益」という頭で商売をしている。つまり、利益を先に考えるか、後に考えるかの違いだが、それによって商売のやり方は大きく異なる。わかりやすい例として、A、B二人の商売人のケースで考えてみよう。

《●Aさんの商売スタイル》

Aさんはまず最初に「いくらの利益を稼ぎたいのか」をイメージして自分の商売を組み立てるタイプだ。そのためにはいくらの売上が必要で、経費がいくらかかるのかを試算する必要があるが、その答えは何種類もあることに気付いた。仮に、年間1千万円の利益を目的とする場合なら、以下のようなプランだ。

(1)5千万円の経費を使って6千万円の売上を得る商売=1千万円の利益
(2)1千万円の経費を使って2千万円の売上を得る商売=1千万円の利益
いずれも「1千万円の利益」を達成しているが、どちらの稼ぎ方が賢いかといえば(2)であることは一目瞭然だ。そこでAさんはできるだけ経費がかからない商売のテーマを選ぶことにした。そこでわかったことは、「経費のかからない商売=利益率が高い商売」ということだ。

《●Bさんの商売スタイル》

Bさんは大手企業に勤めていたサラリーマン時代には社内で"やり手"として知られ、数十億円単位のプロジェクトを任されてきた人物。自分の能力に自信を持って脱サラをした。元同僚からケチな商売人になったとは思われたくないこともあり、創業初年度から"年商1億円"を達成する会社を作ろうと決めた。そのために、社員も雇って立派なオフィスも借りた。持ち前のド根性もあって、1年後には目標どおりに年商1億円を達成することができたが、経費がかかりすぎてしまったために収支は赤字で、社長である自分は無給のまま働き続けている。
しかし売上の額は大きく、オフィスでは若い社員がキビキビと働いているため、会社の台所事情までは知らない昔の同僚達からは"成功した"と羨ましがられている。

【商売で損をする人としない人の特性】

AさんとBさんとの比較では、商売に対する考え方が大きく異なっている。 Aさんの場合には、あくまで「手堅い利益を得ること」が商売の目的であり、それを達成するための投下するコストは少ないほど良いと考えている。
そのため彼はどんな状況でも、商売で損をすることがないのだ。
一方、Bさんの場合には商売に対して様々な付加価値を期待している。上昇気流に乗ることができれば、短期間での株式上場も夢ではない。しかし、大きな夢を追いかけるあまり、自分の読みが裏目に出た時には大きな損を出してしまう。

AさんとBさんとの違いは「商売理念」によるもので、優劣の差を付けることはできない。独立起業の目的を「大富豪になること」に設定するのなら、Bさんのようなやり方でチャレンジするのもよいが、「月収100万円の生活を安定的に維持すること」が目的であれば、Aさんのように"損をしない商売"を追求する発想が大切になる。

事業計画で最も大切な"利益率"の設定

すべての商売において有望度を判断する上で最も大切な指標は
「利益率」であって「売上高」ではない。

成功している経営者ほど、そのことは熟知していて、「儲かる商売=利益率の高い商売」を探すことに奔走している。利益率は業界や業態によってそれぞれ異なり、経営者が努力して改善できる部分と、できない部分とがある。設備や人材への投資にどうしても多額の経費がかかってしまう事業や、業界内の競争が厳しくて利益率が目減りしている事業というのは、手堅い商売を望んでいる人にとっては、あまり手を出すべきではない分野だ。

月収 100万円を自分の目標値として設定するのであれば、それを達成するためにはどれだけの売上高が必要なのかを利益率の違いによって比較してみると、それぞれの商売における特性の違いが見えてくる。クルマの性能に例えるなら、「利益率」はガソリンの燃費効率を表す指標に相当する。同じ目的地へ行くためのガソリン消費量はできるだけ少ないエコカーほど、これからの時代にはマッチする。

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